©︎Ryoji Ikeda Courtesy of TARO NASU

池田亮司「sleeping beauty」
2026年5月9日(土)-6月6日(土)
火-土 11:00-19:00 
日月祝 休
*オープニングレセプション:5月9日(土) 17:00-19:00

5月−6月のTARO NASUでは2022年以来、画廊では4年ぶりとなる池田亮司個展「sleeping beauty」を開催いたします。

聴覚と視覚の領域を横断しながらアートの可能性を拡大し続けている池田亮司。電子音楽の作曲を起点としながらパフォーマンスとインスタレーションを組み合わせ、体験としてのアートを提示する作風でしられる。その制作活動に対する評価は年を追うごとに、国内外問わず高まっているといえる。近年は、地震により中断を余儀なくされた金沢21世紀美術館での特別展示の圧倒的な空間構成や、ロンドンの180 Studiosで展示された天井を仰ぎ見る形式のインスタレーションが巻き起こしたセンセーション、ロンドン、パリで開催された作曲家としてのアコースティック・コンサートの成功などが記憶に新しい。池田の活動は質・量ともにかつてない広がりをみせている。
今回のTARO NASUの展示では、2022年に発表した「data.gram」の進化形ともいうべき、最新映像作品「data.graph」を展示する他、哲学的かつ禁欲的な美しさで人気を博している平面作品「sleeping beauty」を中心にいくつかの新作を展示する。一つの数列が引き金となって、鑑賞者に宇宙の壮大なスケールへと誘なうこのシリーズは、鑑賞者が無意識のうちに抑圧していたかもしれない、自らをとりまく世界の巨大さと畏怖の念を喚起する。映像という仮想世界と平面作品の境界を自在に行き来する、池田の最新の思考を具現化した今回の展覧会「sleeping beauty」は、映像作品を含む約18点の作品から構成される予定である。

 

<アーティスト ステートメント 池田亮司>
展覧会 sleeping beauty は、把握不能な計算的状態空間と、そこから切り出され可視化されるごくわずかな数的断片とのあいだにある、根源的な非対称性を扱います。
ここで sleeping beauty と呼ばれるのは、生成されることも、経験されることも、名指されることもないまま眠り続ける、膨大な可能状態の総体です。私たちが展示空間で出会うのは、その全体のほんの刹那的な断面にすぎません。可視性へと一時的に引き上げられた、わずかな「目覚めた断片」だけが現れ、やがて統計的かつ知覚的な忘却のなかへと沈んでいきます。この空間のなかで存在しうるほとんどすべては、永遠に生成されず、知覚されず、記録されないままにとどまるのです。

数学的な観点から見れば、ここに現れているのは単なるひとつの有限な文字列にすぎません。しかしそれは、はるかに巨大な状態空間の断面として機能しています。そこは、ほとんどすべての要素が名指されることも、計算されることも、見られることもない「数の大海」です。実数の連続体全体を背景にすれば、人間の意識に到達する数の集合は、測度ゼロに等しいほど薄い層にすぎません。この数字列の内部に隠れたパターンが潜んでいるのか、それとも事実上ランダムなのか——そのことを私たちが決定的に知ることはできないのです。

情報理論の観点からすれば、この数列はデータです。それはアルゴリズムによって生成可能であり、保存可能であり、原理的には再現可能でもあります。それにもかかわらず、このひとつの数列との出会いは、このスケールで、この空間で、この身体を通して生起する限り、計算や保存やアーカイブへと完全には還元されません。そこには、時間性と状況性を帯びた経験の次元があり、形式的な記述を超えてなお残り続けるものがあります。

このことは、現代のAIシステムにも通じています。AIは、巨大な数値空間と高次元の内部表現のなかで作動し、その挙動はパラメータとアルゴリズムによって数学的に定義されています。しかし、そこで生起しうる無数の状態のうち、人間が実際に触れうるのは、ごく一部の入力と出力、そしてそれらが引き起こす情動や判断、決定にすぎません。そうした可能性は、あらかじめ完成されたかたちでそこに蓄えられているのではなく、入力や文脈、計算の過程に応じて、一時的に現れては消えていきます。形式的なモデルと、生きられた遭遇としての経験とのあいだには、なお埋め尽くされない隔たりが残ります。

この構造は、カントのいう崇高──理性が把握しえない過剰に直面し、自らの有限性を露呈する瞬間──と響き合っています。同時にそれは、リオタールの論じた現代的な崇高、すなわち完全な表象の不可能性そのものを前景化することで、表象不可能なものを提示しようとする試みにも接続しています。

本展に配された厳格な数的表面と最小限の視覚的手段は、この状態空間を説明するというよりも、その内部における私たち自身の偶有性を触知可能にします。束の間、いくつかの数字が可読なかたちで目覚める。その一瞬の可視性によってこそ、眠り続け、見られることもなく、私たちの認識と技術の射程を超えてなお広がる圧倒的な残余が、対照として立ち現れるのです。
—池田亮司

 

池田亮司 | Ryoji Ikeda 
1966年 岐阜県生まれ。パリ、京都にて制作、活動。
主な展覧会として、2025年「data-verse」(High Museum of Art、アトランタ)、「Ryoji Ikeda」(国立アジア文化殿堂、光州)、2025–2026年「data-cosm [n°1]」(180 The Strand、ロンドン)、2024-2025年「Ryoji Ikeda」(エストニア国立博物館、タルトゥ)、2023年「Ryoji Ikeda」(Amos Rex、ヘルシンキ)、2022年「岡山芸術交流2022」(岡山城、岡山)、「池田亮司展」(弘前れんが倉庫美術館、青森)、2021年「Ryoji Ikeda」(180 The Strand、ロンドン)、2020年「data-verse」(Kunstmuseum Wolfsburg、ヴォルフスブルク)、2019年「Ryoji Ikeda Solo Exhibition」(臺北市立美術館、臺北)、「第58回ヴェニス・ビエンナーレ」(ヴェニス)、2018年「Ryoji Ikeda | continuum」(Centre Pompidou、パリ)、「ウィーンフェスティバル」(ウィーン)、2017年「test pattern」(180 The Strand、ロンドン)、2016年「supersymmetry」(KUMU Art Museum、タリン)、2015年「micro | macro」(ZKM、カールスルーエ)、「堂島リバービエンナーレ」(大阪)、2014年「supersymmetry」(山口情報芸術センター、山口)、2013年「ルールトリエンナーレ」(デュースブルク)、「シャルジャ・ビエンナーレ」(シャルジャ)、2012年「db」(ハンブルガー・バーンホフ、ベルリン)、「Ryoji Ikeda」(DHC/ART、モントリオール)、2011年「the transfinite」(Park Avenue Armory、ニューヨーク)、2010年「あいちトリエンナーレ2010」、2009年「+/- [the infinite between 0 and 1]」(東京都現代美術館、東京)など。

・2025年米タイム紙「AI分野で最も影響力のある人100人」に選出
・2020年芸術選奨文部科学大臣賞
・2020年京都府文化功労賞
・2014年Prix Ars Electronica Collide@CERN Artists Residency Award受賞
・2012年Giga-Hertz-Awardサウンドアート部門受賞
・2003年World Technology Awardアート部門にノミネート
・2001年Ars Electronicaデジタル音楽部門Golden Nica受賞