TARONASUでは7月13日より、サイモン・フジワラ新作個展「The Antoinette Effect」を開催いたします。
サイモン・フジワラ| Simon Fujiwara
1982年、イギリス生まれ。 現在ベルリンを拠点に制作活動。
日本人の父とイギリス人の母を持つ。演劇性の高いパフォーマンスやインスタレーション、彫刻、ビデオそしてテキストといった多様なメディアによって創出されるフジワラの作品は国内外で高い評価を得ている。
2010年 Frieze Art Fairにて カルティエ賞受賞。
主な展覧会に 2015年「Storylines: Contemporary Art at the Guggenheim」(グッゲンハイム美術館、ニューヨーク)、2015年「History is Now: 7 artists take on Britain」(ヘイワードギャラリー、イギリス)、2014年「Un Nouveau Festival」(ポンピドゥー・センター、パリ)、2013年「Grand Tour」(ブランシュヴァイク美術館、ドイツ)、「The Problem of the Rock」(太宰府天満宮、福岡)、2012年「Simon Fujiwara : Since 1982」(テート美術館セントアイブス、イギリス)ほか、2015年PARASOPHIA 京都国際芸術祭、2013年 第2回シャルジャ・ビエンナーレ、2012年第9回上海ビエンナーレ、2009年第53回ヴェニス・ビエンナーレに参加するなど国際展への参加も多数。
19世紀のフランスは政治と産業の双方において革命が進行したといえる。政治的変動が社会をゆるがすなかで産業革命がはじまり、パリを筆頭とする都市への急激な人口集中が新しい産業と社会をつくり出した。旧体制を支えた社会規範や宗教観が希薄化するその一方で、人々の物質的な欲望とそのあくなき追求がこれまでの抑圧から解放され、大量消費社会を形成していく。適者生存の非情な論理に支えられながら資本主義が台頭し、華やかで冷酷な近代社会の礎を築いていく。こうした19世紀フランスの変化の引き金となったのは他でもないフランス革命であった。
1789年のバスティーユ襲撃に端を発したフランス革命において最も象徴的な事件とされるのは1793年の国王ルイ16世および王妃マリー・アントワネットの公開処刑といえよう。神聖ローマ皇帝フランツ1世とオーストリア女大公マリア・テレジアの11番目の子供として生をうけ、パリのコンコルド広場に設置されたギロチン台にて斬首の件に処せられた時は37歳であった。美貌と高貴な血筋で羨望を集めると同時に、その贅沢で享楽的な生活を批判され民衆からの怒りの対象でもあった彼女の存在は現代のセレブリティの先駆けともいえる存在である。意志と実行力をかねそなえ流行の先導者であると同時に、賭博癖や不倫など不品行の話題にもことかかない若い王妃。「赤字夫人」「オーストリア女」といった蔑称で語られた彼女にまつわる噂話はつねに虚実の入り混じったものであり、現代のフェイクニュースやパパラッチの過剰報道を想起させなくもない。10月16日の公開処刑時にはコンコルド広場に「ギロチン型」の耳飾りを売る物売りが登場し、「マダム・タッソー」の蝋人形館でしられるマリー・タッソーは斬首されたばかりのマリー・アントワネットの首を賄賂を用いて入手してデスマスクを作成、公開して人気を集めた。
サイモン・フジワラが今回の新作展「The Antoinette Effectアントワネット現象」で主題とするのは、消費対象としてのセレブリティという概念、そしてそれを生み出す人間の欲望である。解放された欲望の翼にのって、人間の活力と好奇心は世界のすべてを咀嚼し消化することをめざす。都市が日に日に拡大し洗練さを増していく19世紀のフランス近代社会の底にはきわめて独善的な、獣的ともいえる人間の欲望がうごめいていた。それは時代を超えて、今、21世紀の私たちをめぐる社会でもおこりつつある現実ではないのか。多様性の認識と同時並行的にに台頭してきた排他性、物流の加速化、インターネット、SNSなどの進化は大量消費社会の消費対象を物質から精神・仮想現実へと移行させた。セレブリティの一挙手一頭足に瞬時に反応する現代社会は、まさに情報を貪る巨大な欲望の集合体である。生きるためには食べなければならないという人間の業は、物理的な食欲のみならず、いまや精神的な食欲の領域においても敷衍され、共同体の幸福な一員として存在するためには、限りなく供給される大量の情報を咀嚼しつづけなければいけないという強迫観念に世界中が駆り立てられているのである。2017年、オーストリアのブレンゲンツ美術館で開催されたフジワラの個展「Hope House」はナチス・ドイツのユダヤ人虐殺の犠牲となったアンネ・フランクを主題とし、彼女が家族とともに潜伏生活を強いられた家の模型がアンネ・フランク記念館の土産物として大ヒットしていることからヒントをえたインスタレーション作品であった。美術評論家ノーマン・ローゼンタールはこの展覧会を評して「生きることの狂気」についての作品であると述べたという。
「The Antoinette Effectアントワネット現象」はこの「Hope House」の続編ともいえる作品にあたり、より広く、激動する社会変化を視野におさめた内容になっている。展示はおもに立体作品で構成され、約10点ほど、すべて新作の発表となる。