TARO NASU では11月2日よりマルセル・ブロータース個展「Works, Films and the complete editions & books」を開催いたします。
マルセル・ブロータース
1924年ブリュッセルに生まれ、1976年ケルンにて死去。
コンセプチュアルアートの牽引者としてしられる。詩人として活動を始めるも、シュルレアリスム美術に衝撃を受け、1964年詩人から美術家への転向を自ら宣言した。以降、美術をとりまく世界の枠組みや慣習に対する批判精神に富む作品を絵画、彫刻、映像など多彩な手法で制作し、現代美術の領域を拡大・進化させた。その多大な影響力はいまだに衰えを見せない。近年の主な展覧会としては2023年「Marcel Broodthaers: Museum」(Kunsthaus Zurich、チューリッヒ)、2022年「Marcel Broodthaers: Broodthaerskabinet」(S.M.A.K.、ヘント)、2016年「Marcel Broodthaers: A Retrospective」(MoMA、ニューヨーク)、2015年には第56回ヴェニスビエンナーレの企画展「All the world’s futures」にも参加している。
今回の展覧会は小規模ではあるものもマルセル・ブロータースの回顧展といいうる構成となっている。ブロータースが制作した全てのエディション作品と全ての書籍を一堂に展示することは極めて稀であり、今回はその貴重な機会の一つとなる。展示には彼の代名詞ともなった60年代の「Le corbeau et le renard(カラスとキツネ)」や、70年代の「Voyage on the north sea(北海の旅)」などがその他の映像ととも含まれている。
エディション作品や書籍はそのレイアウトも含め、詩人としての彼の重要な側面を表すものであり、それらすべ手が彼の制作過程の一部であった。そのほか展覧会では、「La Signature」、「Section XVIIe siècle (diptych)」、「Le Rouge et Le Bleu」、「Décor」、「Un Jardin d’Hiver, alphabets avec palmier」「Magnifique Peinture」といった60年代、70年代のスライド作品も展示され、見どころとなっている。
「1964年にマルセル・ブロータースは、自身が著した最後の詩集(《Pense-Bête》)の売れ残った50部を石膏でかため、彫刻作品として発表しました。そうすることでブロータースは、詩人として出発した自分が、それまで打ち込んできた詩という表現形式から決別したことを裏付けたのです。同時に彼は、この行為を通じて、真逆の価値観の世界(芸術)と協定を結びました。同年にベルギーの首都ブリュッセルでアーティストとしての”正式な”一歩を踏み出したブロータースは、展覧会の招待状の中でアーティストに転向した理由を「私も、何かを売って人生で成功できないだろうかと自問したのです」という飾らない言葉で明かしました。そのとき、ブロータースは40歳でした。それまでは、ごく平凡な職業(引越し業者、講師)から、きわめて詩的なもの(ジャーナリスト、写真家、書籍商)にいたるまで、あらゆる仕事を経験していました。それでもブロータースは、アーティストとしての生涯を通して詩を追求し続けました。それは、彼が詩という限定的な領域と決別した後も続きました。ブロータースは、マラルメやボードレールといった19世紀を代表するフランスの詩人たちの作品に無数のオマージュを捧げていますが、自身の作品では、「文学とは」「書籍とは」と問い続けることをやめませんでした。1960年代の終わりから他界する1976年まで、ブロータースはコンテンポラリー・アートにおいて決定的でありながらも二義的な基準を打ち立てました。それとともに、オブジェや出版物、映画、インスタレーション、ひいては芸術との向き合い方といった独自のアプローチを通じて、コンセプチュアル・アートという冒険に身を投じたのでした。こうしてブロータースは、社会学者、歴史家、美術評論家、さらには、1968年から1972年にかけて展開された、架空の美術館の12のセクションを構成するという一大プロジェクト《近代美術館 鷲部門》の”所蔵品”のキュレーターとなったのです。」
ベルナール・マルカード
(フランスの美術評論家、キュレーター)